【2026年診療報酬改定】加算を取れないクリニックが年間数十万円を失う時代へ──経営層が今すぐ判断すべきDX投資領域
- 6月26日
- 読了時間: 15分
更新日:6月30日

はじめに:あなたのクリニックは、来月から何点の加算を失いますか?
「制度が変わったのは知っている。でも、うちは大丈夫だと思う。」
2026年6月1日の診療報酬改定施行後、こう話すクリニックの院長と話す機会が増えた。しかし現実は厳しい。届出が間に合っていない医院、マイナ保険証の利用率が基準を下回ったままの医院、旧加算のつもりで新加算を自動的に引き継げると勘違いしていた医院──それぞれが、気づかないうちに毎月の収益を削られ始めている。
今回の改定の本質は、単なる点数の改定ではない。国が医療機関に求める「DXの姿」が、根本から変わったのだ。
従来の評価軸は「インフラを整備したか」だった。顔認証付きカードリーダーを置き、オンライン資格確認を導入すれば評価された。しかし2026年改定から、評価軸は「実際に使われているか・情報が連携されているか」へと転換した。整備しただけでは評価されない。患者が実際にマイナ保険証を使い、診療情報が電子的に連携されて初めて、加算が算定できる。
本稿では、制度の解説にとどまらず、「どの医院が利益を失い、どの医院が利益を伸ばすか」を具体的な数字とともに示す。また、現場が本当に大変な理由にも向き合いながら、経営判断として何に投資すべきかを考えていく。
<こんな方におすすめの記事です> 中小クリニック院長・医療法人経営者・事務長・医療DX投資に迷っている方
▶︎目次
監修:EnRoot合同会社
第1章:2026年6月、診療報酬の「DX評価」が全面リニューアル
廃止される2つの加算──何がなくなるのか
令和8年5月31日をもって、以下の2つの加算が廃止された。
医療DX推進体制整備加算(8点): 令和6年度改定で新設。オンライン資格確認・マイナ保険証対応・電子カルテ情報共有サービス等の体制整備を評価。
医療情報取得加算(1〜3点): 初診・再診時に患者ごとのマイナ保険証利用有無に応じて算定。
両加算を合わせると、条件によっては1患者あたり最大11点程度を算定できていた。これが一夜にしてゼロになるのが、対応できていない医院の現実だ。
新設「電子的診療情報連携体制整備加算」の全体像の全体像
廃止された2加算に代わり、令和8年6月1日から「電子的診療情報連携体制整備加算」が施行された。
この加算の最大の特徴は、「体制」ではなく「実績」で評価される点だ。オンライン資格確認のシステムを置いているだけでは不十分で、実際にマイナ保険証が使われている比率(利用率)が算定要件に直接組み込まれた。
また、旧加算の届出は新加算に自動移行されない。医療DX推進体制整備加算を届け出ていた医院も、電子的診療情報連携体制整備加算を算定するには、あらためて地方厚生局への届出が必要だ。この点を見落として「特に何もしていない」という医院は、6月以降の算定が丸ごと消える。
出典: ・厚生労働省 疑義解釈資料(その1)(令和8年3月23日 保険局医療課事務連絡) ・ユヤマ公式コラム「【2026年改定】電子的診療情報連携体制整備加算とは?点数・施設基準から電子カルテ必須要件まで徹底解説」
「整備から実績へ」──評価軸が変わった本質的な理由
なぜ国はここまで踏み込んだのか。
背景には、医療DX投資が「絵に描いた餅」になっていた現実がある。顔認証付きカードリーダーを設置しても、患者が使わなければ診療情報の連携は進まない。電子カルテを入れても、他の医療機関と情報が繋がらなければ「連携型医療」は実現しない。
国が目指す姿は、患者が複数の医療機関を受診しても、薬剤情報・診療情報・アレルギー歴がシームレスに共有される医療インフラだ。そのためには、「使われる仕組み」を作ることが不可欠であり、それを診療報酬で誘導する──それが今回の改定の本質だ。
第2章:加算の中身を経営視点で読み解く
加算1・2・3の点数と取得要件を比較する
電子的診療情報連携体制整備加算は、医療機関のDX進捗に応じて3段階に設定されている。

再診料加算は、旧「医療情報取得加算」の「3月に1回」から「月1回」へ変更された。これは体制が整っている医院にとっては実質的な増収要因になる一方、体制が整っていない医院にとっては毎月の機会損失が積み重なることを意味する。
出典: ・厚生労働省告示(令和8年3月5日) ・実務ガイド「電子的診療情報連携体制整備加算の新設|医療DX推進体制整備加算からの移行と要件一覧」 ・GemMed「電子的診療情報連携体制整備加算における電子処方箋・電子カルテ等要件の詳細など示す―疑義解釈4【2026年度診療報酬改定】(4)」
マイナ保険証利用率30%という"足切りライン"の意味
全加算に共通する要件として、「算定月の3・4・5か月前のいずれかのレセプト件数ベースのマイナ保険証利用率が30%以上であること」が設定されている。
この30%という数字は、一見低いように思えるかもしれない。実際、2026年2月時点の全国平均は約49.89%(厚生労働省公表値)であり、多くの医院は既にクリアしているはずだ。
しかし問題は、医院ごとのばらつきだ。
高齢患者が多い内科・整形外科: マイナカードの操作に不慣れな患者が多く、利用率が20〜30%台にとどまるケースがある
小児科: 保護者を含めた対応が必要なため、利用促進に時間がかかる(ただし6歳未満患者が3割以上の場合は要件緩和の特例あり)
慢性疾患の固定患者が多い診療所: 「いつも保険証で来ている」患者に変更を促すのが難しい
月次で利用率をモニタリングし、30%を下回った月が出た場合はすぐに対策を講じる体制が必要だ。「気づいたら3か月間算定できていなかった」という事態を防ぐには、レセコンや管理システムでの自動モニタリングが現実的な解となる。
出典: ・全国保険医団体連合会「マイナ保険証2026年2月利用率は49.89%」(2026年3月24日) ・GemMed「電子的診療情報連携体制整備加算における電子処方箋・電子カルテ等要件の詳細など示す―疑義解釈4【2026年度診療報酬改定】(4)」
外来データ提出加算の再編──充実管理加算で何が変わるか
外来データ提出加算も、今回の改定で再編された。
従来の外来データ提出加算(50点)は、新設の「充実管理加算」(10〜30点)に組み込まれる形で見直しが行われた。生活習慣病管理料(Ⅰ)(Ⅱ)の算定対象患者に対して算定できる仕組みで、患者数が多い医院ほど収益インパクトが大きくなる構造だ。
一方、従来版では煩雑だったデータ入力項目(検査数値の手入力など)は削減・簡素化されており、算定のハードルは下がっている。ただし「算定できる」環境を整えるには、電子カルテとデータ提出システムの連携が前提となる。
第3章:【損益シミュレーション】対応できた医院 vs. 対応できなかった医院
数字で語る。これが経営判断の出発点だ。
<前提条件> 以下のモデルクリニックを想定する。
項目 | 設定値 |
診療科 | 内科(高血圧・糖尿病・脂質異常症等の慢性疾患中心) |
月次レセプト件数 | 500件 |
初診件数 | 50件/月 |
再診件数 | 450件/月 |
生活習慣病管理対象患者 | 200人/月 |
マイナ保険証利用率 | ケースにより異なる |

注:上記の試算はあくまでシミュレーションです。実際の算定可否は施設基準の充足状況・届出の完了・対象患者数・診療科目等により大きく異なります。必ず所管の地方厚生局または専門家にご確認ください。
差額が生む「経営格差」
さらに、外来・在宅ベースアップ評価料や継続的賃上げ特例など、他の加算の算定可否も絡めると、対応状況の差は年間100万円規模に達する可能性がある。
1年間の差が100万円近いということは、5年間では500万円の経営格差になる。この差は、スタッフの採用コストにも相当する。「DXへの投資は高い」という感覚が院長の中にある場合、この損失額と比較して判断してほしい。
比較 | 年間差額 |
ケースC vs. ケースA(何も対応しない場合) | 約68万円/年 |
ケースC vs. ケースB(最低限対応の場合) | 約55万円/年 |
第4章:現場の"しんどさ"──なぜDX対応は難しいのか
制度の要求は増えている。しかし現場のリソースは増えていない。これが多くのクリニックが抱えるリアルな矛盾だ。
マイナ保険証利用率を上げる現場の壁
マイナ保険証の利用率を上げるには、患者に「使ってもらう」しかない。しかしこれが思いのほか難しい。

これらは「患者教育」の問題ではなく、「制度のインセンティブ設計」の問題だ。予約確認メール・SMSへの一文追加、院内掲示の見直し、受付スタッフのトークスクリプト整備──こうした「患者体験の設計」を丁寧に積み重ねることが利用率向上の実態だ。
外来データ提出の事務負担と人件費コスト
充実管理加算の算定に必要な外来データ提出は、従来版より入力項目が削減されたとはいえ、定期的なデータ抽出・確認・提出という業務フローが発生する。
クリニック規模によって異なるが、電子カルテとデータ提出システムが自動連携されていない環境では、毎月30分〜2時間程度の事務作業が発生するケースがある。月次の作業コストは数万円規模になりうる。
「加算が取れた」が「その分、事務コストが増えた」では、純益はほとんど出ない。加算取得とセットで業務効率化を考える設計が不可欠だ。
レセコン・電子カルテ・マイナシステムの“分断問題”
以下は医療機関のシステム環境の一例だ。

それぞれが「対応している」と言っているが、実際にはシームレスに連携されておらず、スタッフが複数のシステムを行き来しながら手動でデータを突合している。このような「分断されたシステム群」の上に加算対応を積み上げようとするから、現場が疲弊する。
スタッフ疲弊とシステム増設の悪循環
あるあるパターンとして、こういうことが起きる。
加算対応のために新しいシステムを導入
スタッフへのオペレーション変更の研修が必要になる
慣れるまでの期間、業務が遅くなる
患者対応が追いつかず、残業が増える
スタッフから「また新しいシステム?」という不満の声
院長はDX疲れを感じ始める
この悪循環から抜け出すには、「システムを増やす」発想から「統合・連携する」発想への転換が必要だ。
第5章:経営層が今、投資すべきデジタル領域
制度対応だけを目的とした場合、いずれDXは手段ではなく目的になってしまう。「次の改定でまた変わる」と言いながら、毎回ツールが増え、スタッフの負担だけが積み上がる。
経営戦略としてのDXを設計するために、今投資すべき領域を3つ整理する。
投資領域①:マイナ保険証受付の「患者導線設計」
最初に投資すべきは「システム」ではなく「設計」だ。
マイナ保険証の利用率を上げるために必要なのは、高価な機器の追加ではなく、患者が「自然にマイナカードを使いたくなる」導線の整備だ。
具体的な施策例:
予約確認SMSまたはメールに「次回はマイナンバーカードをお持ちください」の一文を追加(コストほぼゼロ)
院内の待合・受付前に「マイナ保険証のメリット」を視覚化したポスターを掲示(厚生労働省や支払基金の無料素材を活用)
受付スタッフ向けに「マイナ利用をご案内するトークスクリプト」を作成し、全員統一対応
かかりつけ患者に対し、診療終了後に「次回からはマイナカードをお願いします」と一声かける習慣化
こうした仕組みは、技術的なコストがほとんどかからず、最初の改善として最も即効性が高い。
投資領域②:電子処方箋または 今後のCLINSへの対応(加算区分の引き上げ)
加算3(4点)から加算1(15点)へ──初診時の算定点数は約4倍になる。この差を生むのが、電子処方箋またはCLINS(電子カルテ情報共有サービス)への対応だ。
判断のポイント:
電子処方箋: 院外処方の割合が高い内科・在宅医療系クリニックでは費用対効果が高い。近隣薬局の対応状況も確認が必要。
CLINS(電子カルテ情報共有サービス): 現在使用している電子カルテの対応状況を確認する。今後の対応状況によっては、CLINSに対応した製品へのリプレイスも視野に入れる。特に在宅分野ではCLINS対応は必須。
どちらから対応するかは、現行の電子カルテの対応状況・近隣薬局の環境・導入コストを総合的に判断する。「加算を1ランク上げるために必要な最小投資」から逆算してシステムを選ぶのが合理的だ。
投資領域③:レセコン・電子カルテ・マイナ連携の「統合基盤」整備
最も根本的かつ長期的な投資が、システム統合だ。
ベンダーを分散させると、その都度、連携のための工数・コスト・リスクが発生する。中長期的には、以下の条件を満たすシステム構成を目指すことが理想だ。
レセコン・電子カルテが同一ベンダーまたは連携認証済みの組み合わせ
マイナ受付・オンライン資格確認との自動データ連携
外来データ提出(充実管理加算)への自動抽出・提出機能
電子処方箋・CLINSへの対応
特に電子カルテのリプレイスは、運用コストの問題もあり「すぐには動けない」という医院が多い。しかしリプレイスのタイミングを2028年度改定(次回サイクル)に照準を合わせて今から計画するのが、中期的には最も合理的な経営判断だ。今から情報を集め、リプレイスする場合のメリット・デメリットを抽出し、今後のベンダーの開発状況と環境変化を見極めながら判断できるよう準備をする必要がある。
「DX投資のROI」の考え方
DX投資の稟議を通すとき、「コストがかかる」という議論になりがちだ。しかし、正しい問いは「このシステムに年間いくらかかるか」ではなく、「このシステムを入れると年間いくら得をして、入れないと年間いくら損をするか」だ。
第3章のシミュレーションに戻ると、加算1と加算ゼロの差は年間約68万円以上に達しうる。電子処方箋システムの年間コストが仮に30万円前後であれば、1年未満での回収が可能な計算になる。加算収入+スタッフ業務削減効果(月2時間の削減=時給2,000円×24時間=年間約5万円)を合算すると、ROIはさらに明確になる。
第6章:2026年改定が示す医療経営の構造変化
「連携型医療」への移行が意味すること
今回の改定が示した方向性は、医療機関単体で完結する診療から、情報を共有しながら行う連携型医療への転換だ。
電子的診療情報連携体制整備加算という名称が示す通り、「診療情報を電子的に連携する体制」が、今後の医療機関経営の基盤になる。これは加算の話にとどまらない。
地域連携・紹介・逆紹介: 情報連携ができていない医院には、病院からの逆紹介も来にくくなる
患者の受診先選択: 「マイナカードで薬の情報が共有できる医院」「検査結果が次の受診時に参照できる医院」を患者が選ぶ時代が来る
在宅医療・多職種連携: 介護・訪問看護との連携においても、情報共有プラットフォームへの参加が前提条件になっていく
DX対応できていない医院は、加算だけでなく「患者から選ばれる医院か否か」という競争環境においても遅れを取る。
今後の改定サイクルで起こりうること
2028年度の次回改定を見据えると、以下の動向が想定される。
マイナ保険証利用率の算定要件は、さらなる引き上げが行われる可能性が高い(現在30%→次回は50%以上への引き上げも想定)
標準型電子カルテ(国が認証する仕様)への対応が、加算要件に組み込まれる可能性
CLINSへの参加が、より高い区分の加算要件として明示化される可能性
「情報連携の質・頻度」のアウトカム評価が強化される方向性
つまり「今対応すること」は、現時点の加算を取るためだけでなく、2028年改定への準備でもある。今年CLINS対応の電子カルテへ移行しておけば、次の改定でもスムーズに対応できる。逆に、今何もしなければ、2年後にまた同じコストとリソースをかけて対応することになる。
まとめ:2026年改定が問うている本質
今回の診療報酬改定が問うているのは、「DXに対応しているか」という技術的な問いではない。「あなたの医院は、情報連携を前提とした医療に参加できているか」という経営の根幹を問うている。
整理すると:
対応できない医院: 年間数十万〜百万円規模の加算機会を失い、人件費負担だけが増加。競争環境でも遅れを取る
最低限対応した医院: 加算3(4点)を取るが、旧加算比で実質減収。充実管理加算も取れず、恩恵は限定的
戦略的に対応した医院: 加算1(15点)+充実管理加算を安定的に算定。スタッフ工数も削減され、収益と現場効率の両立が実現
選択肢は今すぐ行動するか、あるいは損失を受け入れ続けるかだ。
DXは「やるかやらないか」の問いではなく、「どの順番で、何に投資するか」の経営判断だ。制度の変化を不安として受け止めるのではなく、「体制を整えた医院が評価される」時代へのシフトとして、前向きに活用してほしい。
医療DXを制度対応からシステム選定までトータルサポート
「自院はどの加算区分に該当するか確認したい」 「DX投資の優先順位と費用対効果を試算してほしい」 「電子カルテ・電子処方箋の選定で迷っている」
医療現場におけるこうしたお悩みに対し、EnRoot(エンルート)は経営のパートナーとして伴走します。豊富な知識を持つスタッフが、制度対応の整理から具体的な運用サポートまで、院長・事務長様の不安を解決いたします。
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参考文献・出典一覧
# | 内容 | 出典・URL |
1 | 令和8年度診療報酬改定 説明資料等 | |
2 | 令和8年度診療報酬改定 全体概要版PDF | |
3 | 令和8年度診療報酬改定の基本方針 | |
4 | 疑義解釈資料(その4)電子的診療情報連携体制整備加算 | GemMed(中医協疑義解釈資料参照):https://gemmed.ghc-j.com/?p=74104 |
5 | マイナ保険証2026年2月利用率49.89%公表 | |
6 | 電子的診療情報連携体制整備加算 詳細解説 | |
7 | 電子的診療情報連携体制整備加算 概要解説 | |
8 | 外来データ提出加算・充実管理加算 解説 | |
9 | 2026年改定のクリニック経営への影響 | |
10 | 加算1〜3の違い・要件比較 | |
11 | 届出・算定実践ガイド |
本記事は2026年5月時点で公開されている厚生労働省の告示・通知・疑義解釈資料をもとに作成しています。制度の詳細・最新情報は随時更新されますので、実際の算定にあたっては所管の地方厚生局または最新の通知をご確認ください。




